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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和49年(家)182号 審判

申立人 上坂澄子(仮名)

相手方 上坂俊治(仮名)

事件本人 上坂宏子(仮名) 昭四一・七・一七生

主文

申立人と相手方との別居期間中、事件本人の監護者を申立人と定める。

相手方は申立人の事件本人に対する監護養育を妨げてはならない。

理由

一  申立ての趣旨

事件本人を申立人が引取る旨の審判を求める。

二  申立ての実情

申立人と相手方は夫婦であるが、現在別居し離婚調停中である。事件本人は相手方の許で監護されているところ、相手方は入院中であつて事件本人の監護ができないため、事件本人は学校も欠席勝ちであり最近は近所の家に預けられたりして性格も変つてきている模様で、このままの状態で放置しておくことができない。よつて本申立てに及んだ。

三  調査の結果当裁判所が認めた事実

申立人と相手方は昭和三八年一〇月三〇日婚姻し同四一年七月一七日長女である事件本人をもうけたが、夫婦関係が円満を欠くに至つて同四七年七月一〇日以来別居し、同年一〇月一六日受理により申立人から離婚を求める夫婦関係調整調停事件が当庁に係属している(昭和四七年(家イ)第四七九号事件)。別居以来相手方とその母上坂もと(七〇歳)の強い希望で事件本人は同人らによつて監護されてきたところ、相手方が病弱で入院することが多くその母は老齢のため監護に不適切な点があり小学一年生の事件本人の教育上も支障を生ずることとなつたことから、昭和四九年二月一八日本件につき臨時の処分として監護者を申立人と定め申立人に事件本人を引渡すべき旨の審判がなされ、同月二一日以来事件本人は申立人のもとで養育されている。

相手方は女子短大助教授で週四日勤務し月額約一一万円の給与を得ているが、上皮出血性紫斑病のため断続的に入院治療を受けて未だ治癒するに至らず精神不安定の状態が続いているし、相手方不在中事件本人の監護に当つていた母もとも老齢のため生活能力が著しく低下して事件本人の養育を満足に果すことができず、事件本人の性格にも歪みが生じ昭和四九年一月に入つてからは殆ど登校することもなく、近隣者及び担任教諭により事件本人の環境の早期改善、母である申立人による養育が強く望まれてきた。

一方申立人は広告代理店に経理課長として勤務し、月額約八万六、〇〇〇円の給与のほか夏期、年末に各五か月の手当を支給されて生活は安定しており、健康状態も良好である。昭和四九年二月二一日以来事件本人との生活が始まつたが、申立人の勤務中(日中)は事件本人を近隣の知人に託し、事件本人はその家の児童と共に毎日小学校に通学している。母との同居の希望が叶えられて事件本人の健康状態も良好となり、精神状態も安定してきている。

なお、前記調停事件は、当事者双方が離婚につき合意しているものの親権者指定、金銭請求の点で合意に至らず、期日が重ねられている。

四  当裁判所の法律上の判断

夫婦は本来同居し未成年の子に対して共同親権を行うものであるから、夫婦関係が破綻して別居し互いに子の監護を主張し合つた場合の法律関係については民法上規定を欠いている。しかし現在の婚姻制度のもとではそのような別居は避けることができず、その際誰が未成年の子の監護者となるかは子の福祉にかかわる重大な事項であるから、民法七六六条を類推適用して家庭裁判所は子の利益のため必要があると認めるときは監護について相当な処分を命ずることができるものと解するのが相当である。

そこで前示事実関係のもとで判断するに、現状のままで事件本人を相手方及びその母の監護に委ねることは事件本人の健全な成育を阻害することとなるおそれがあると認められるから、当事者双方の別居期間中事件本人の監護者を申立人と定める。なお、申立人は事件本人の引渡しを求めているが、前記臨時の処分により事件本人はすでに申立人に引取られて監護を受け事実上良好な状態が生じているので、その状態を前提とし別居期間中事件本人の監護養育に関して当事者間に紛争が生ずることを避けるため、相手方に妨害行為の禁止を命ずることとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 堀口武彦)

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